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「弁護士業界」勝手に解説-「労働事件」(3)・最終回 [「弁護士業界」勝手に解説]

労働事件の第3回は、使用者側から見た労働事件ということで考えてみたいと思います。
前回までの解説はこちら 労働問題(1)労働問題(2)

労働事件について従業員から何らかの請求を受ける可能性があるという事態は、使用者にとっては、それだけ経営上のリスクを負っているということになります。リスクを数値化するのは簡単ではありませんが、リスク管理の観点からリスクの数値化を考えてみると、以下のような計算式が成り立ちます。

リスクの大きさ=予想される支払額×請求を起こされる確率

巨大地震のように損害額が甚大でも、発生の確率がほとんどゼロに近ければリスクは小さいということになりますし、数百万円の請求だとしても、ほぼ確実に請求され、その請求が認められてしまうということであれば、そのリスクは大きいということになるわけです。(前回解説したように、労働事件はかなりの割合で労働者側に分があります。)

前回紹介した未払い残業代の問題を例にとると、一件一件の単価は数十万円から2~300万円程度の事案が多く、これまでは請求を起こされる確率も高くなかったので、リスクとしてはさほど大きなものではありませんでしたが、昨今の残業代請求を巡る状況を考えると、請求される確率は確実に高まっており、それだけリスクも大きなものになってきていると言えます。

したがって、未払い残業代の問題を抱えているのであれば、早期に対策を講じる必要があるのですが、そのような案件の相談に来られる企業の社長は、「残業代をまともに支払っていては会社が潰れてしまいます。」などと言って、対策には消極的です。

私は、企業向けの講演をする際に、様々な経営上のリスクのことを「貸借対照表上に現れていない負債」と表現することがあるのですが、負債が嵩んで支払えなくなれば会社が倒産してしまうのと同様、リスクを放置して巨大化した状態でそのリスクが現実化したときには会社の存続も困難になってしまうのです。

良好な労使関係にある企業であれば、会社の状態を理解する従業員が会社の首を絞めるような無理難題を突き付けることはないと思われるかもしれませんが、従業員自身も収入に余裕のない状態で、周囲から未払いの残業代を請求してうまく行ったという話が聞こえてくるようになると、正当な権利を行使しないことを期待できると考えるのは非常に危険なことです。

●ではどうしたらよいのか?~マスダの考え
それではどうすれば良いのかということなのですが、恒常的に残業しなければ業務が回らないというのであれば、会社の利益を削ってでもきちんと残業代を支払うか、従業員を補充するか、あるいは、根本的な給与体系を変更する以外に方法はないでしょう。

特に、残業代をきちんと支払ったら利益が出せないという会社であれば、従業員にきちんと会社の実情を説明して、残業代算定の基礎となる給与部分の減額を実施しなければならなくなります。従業員に対する説明も、通り一遍の「経営が苦しく支払ができないから」という程度のことでは納得してもらえないでしょう。(社長が高級車を乗り回し、接待と称して毎日のように飲食やゴルフに興じているような会社であれば、従業員が聞いてくれるはずもないので、説明の前には、経営者自身が自らの襟を正しておく必要があります。)

また、そこまでの協力をお願いするときには、会社側も従業員に財務状況をきちんと明らかにして、従業員自身が経営者の目線で考えることができるための情報を提供する必要があります。加えて、従業員に会社の経理内容を理解できるような教育をすることも必要になるでしょう。

こうすることで初めて、従業員の理解を得られるようになり、残業代のリスク(貸借対照表に載らない債務)を削減することができるのですが、実は、経営上それ以上の効果が期待できます。

良く経営者は、「うちの社員は経営者の気持ちを理解してくれない。」とか「経営者の視点を持って仕事をする社員が育たない。」といった愚痴を言いますが、それは、経営者と同じ情報を持っていないのですから、当然のことです。

ところが、従業員に経営者の持っている情報のかなりの部分を公開することによって、従業員自身が経営者的な視点で会社の現状を理解しようとしますので、会社の問題点なども、自分の問題として改善の方向を検討するようになってくれます。

企業のようなピラミッド型組織においては、経営の根幹にかかわる情報はトップに集中し、末端に行くほど少ない情報しか得られなくなります。したがって、自らが必要とする情報を得たいと思ったら上司に提供してもらうしかなくなるので、情報を持つということが権力の源泉になるということがあります。

しかし、そのような経営を続けていては、企業経営を左右する意見は、数多くいる従業員のごく一部の者からしか上がってこないことになります。最終的な判断はトップが責任を持って行うとしても、その判断に至るプロセスとして多くの意見を吸い上げることは大事なことです。

そのような経営の姿勢が、従業員の会社への帰属意識を高めるとともに、従業員自身に経営者の視点を学ばせる格好の機会となるのです。

如何でしょうか、経営者の皆さん。苦しい選択かもしれませんが、その苦しみの先に企業の繁栄があるとしたら、トライしてみる価値は十分にあると思います。

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労働問題に関する解説は今回で終了とさせていただきます。
次回からは、ほとんどの弁護士が年に数件は受任する離婚事件について解説していきたいと思います。

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