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「弁護士業界」勝手に解説-「離婚事件」(2) [「弁護士業界」勝手に解説]

離婚事件の2回目は、離婚事件で遭遇する依頼者のお話です。

どのような事件でも、弁護士は依頼者から提供された情報をもとに相手方と対峙することになりますし、依頼者と協力しなければ良い結果に結びつかないものです。そんな原則がある訳ですが、離婚事件の場合には、夫婦の間の出来事が他人の見ていないところで起こることが多く、多くの場合、そのときの事実を証拠によって証明することはとても難しいので、提供された情報がどこまで使えるのかの判断は難しいところです。

また、離婚事件では、離婚原因となる事情は本人から説明してもらわなければなりませんが、結婚してから離婚まで数年から数十年の間のことが順不同で語られることが少なくありませんので、その事実関係をきちんと整理して理解するのに一苦労することになります。

裁判で離婚を認める理由は、民法770条1項に定められていますが、その中に「その他婚姻を継続し難い重大な事由」(同5号)という離婚原因があるため、典型的な離婚原因がないときには、結婚から今までの相手方の振る舞いをいろいろ寄せ集めて、合わせ技で婚姻を継続し難い重大な事由があるといった主張をすることもあり、主張する側も反論する側も、過去の事実について記憶違いが起こることもある訳です。

また、弁護士としては、ポイントを絞って本当に離婚原因として考慮される事情のみを主張したいところなのですが、当事者にとっては、法的には些末なことでも、感情的にどうしても許せないことがあったりするので、これを敢えて主張から落とすと依頼者との信頼関係にひびが入りかねなくなりますし、本筋以外のことをごちゃごちゃ主張するのは却って言い分が分かりにくくなったりするので、そこら辺をきちんと理性的に切り分けてくれる人がやりやすい依頼者となる訳です。

また、離婚事件は、調停前置主義といって、裁判を起こす前には調停を行う必要があるという原則があるので、話し合いの手続を行うことになりますが、代理人はこの辺で調停を成立させた方が依頼者のためになると思って説得しても、感情的になってしまってどうしても説得に応じてくれない依頼者もいます。

そんなときには、離婚事件も結論に応じて弁護士報酬が増減するというのが一般的な決め方ではありますが、意外に思われるかもしれませけれども、離婚事件に関しては、受任した後は早く解決して欲しいと思ってしまう事件が少なからずあります。

◎親権の争い
特に、事前の打ち合わせの段階から、「子供の年齢や現在の養育環境を考えると親権を争っても無駄ですよ。」と説明して理解しているはずなのに、無抵抗で妻の方に親権を渡すのは面白くないからという理由で親権を争う父親の事件などは、妻が親権者としてふさわしくないという事情を主張しなければならないので、いかに相手の生活態度が不健全で子供の養育環境としてふさわしくないかというような、人格攻撃に近い主張をせざるを得なくなるので、代理人としても非常に嫌な気持ちになることがあります。

親権の争いは、話し合いをしたとしても平行線になることは明らかなわけですから、早く親権の問題にけりをつけて子供との面会交流の条件を詰めて行った方がずっと良いと思うのですが、そこの割り切りができない人が少なくないのです。

◎財産分与の争い~婚姻中の支出
また、離婚に伴う財産分与については、結婚してから夫名義で築いた財産がある場合には応分のものを渡さなければならないのは当然のことなのですが、それを認めることにどうしても納得がいかないのか、過去の相手方名義の出費の話を持ち出して、それを控除して欲しいという人もいます。

しかし、婚姻中にお互いが了解して支出したものであれば、たとえ夫婦の一方のための支出であっても、離婚時にあれこれ言わないのが基本ですから、細かなことは言わない方が良いのにと思って、そのように話をしても、相手に対する感情的な不満から、できるだけ少なくしか渡したくないという男性が多いのも残念なことです。

◎離婚後の生活設計は大丈夫?
一方の女性の側で感じるのは、「離婚したい!」という思いが先に立って、離婚後の生活設計が非常に甘く、本当にやって行けるのだろうかと思う事案が少なくないということです。離婚してしまえば代理人の仕事は終わる訳ですが、余計なお世話と言われても、やはりみすみす苦労をすると分かり切っているのに安易に離婚するのは如何なものかと思うのです。

特に、結婚期間が長くなって、その間ずっと専業主婦だった女性が、離婚の際にそれなりの給付をもらったとしても、自活して行くのは大変なことですから、もっとしたたかに生きることを考えても良いのではないかと思うことも少なくありません。

離婚事件はとかく感情に左右されることが多いのですが、それよりも冷静に勘定のことも考えて判断するということも必要なのではないかと思うのです。
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今回は、困った依頼者のことももっと書こうと思っていたのですが、本当に困った人の問題はどうしても個性的になってしまうので、これ以上は書けませんでした。
次回は、離婚事件を依頼する際に、ここまでやっていただけると弁護士としては非常に仕事がしやすいという、良い例のお話をしたいと思います。

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「弁護士業界」勝手に解説-「離婚事件」(1) [「弁護士業界」勝手に解説]

今回から離婚事件について解説していきたいと思います。

弁護士も外国との契約関係を主に扱う渉外事務所や大手企業の法務問題を中心に扱う事務所に所属している弁護士であれば、その主要業務を行うだけで手いっぱいで、彼らは法廷に出向くこともほとんどないというような仕事をしていますが、いわゆる一般民事を扱うほとんどの弁護士は、年に数件は離婚事件を受任するといっても良いでしょう、

離婚事件は、家庭裁判所の管轄の事件ですから、以前取り上げた認定司法書士も代理人になることはできませんので、離婚事件の代理人は弁護士が独占的に取り扱っている分野です。

また、この分野は、相談の件数も多く、私たちが市役所などの公的相談所に行って相談を受けるときも、債務整理、労働問題と並んで相談件数の多い事件類型であるといえます。

●日本の離婚制度~協議・調停
日本の場合には、協議離婚という制度もあるので、離婚は必ずしも裁判所に行かなければできないというものではありません。欧米のキリスト教国では、結婚が神への誓いであるということもあって、離婚するのも必ず裁判所を通さなければならず、円満離婚であっても双方に弁護士の代理人を付ける必要があるのとは大きな違いがあります。

先日見たテレビ番組の中で、このように離婚しにくいという背景もあって、フランスなどでは結婚という形を取らずに事実婚がかなりの割合を占めており、事実婚の家庭にも法律婚と同様の子育て支援をしているということが紹介されていましたが、日本では、当事者の合意があれば離婚できるので、制度としては大きな違いがあります。

したがって、私は、離婚の相談を受ける場合にも、弁護士が介入しなくても当事者どうしで解決できそうな状況であれば、解決の方向性を示して後は双方で良く話し合いをして、どうしてもうまくいかないときには離婚調停を起こせば良いというアドバイスをすることが良くあります。

●マスダはなぜすぐに受任しないのか?~離婚事件の弁護士費用
このときに、どうして「代理人として相手方と交渉してあげます」と言わないのかというと、やはり弁護士費用の問題があるからです。離婚事件を受任した場合の弁護士費用のおよその目安は、事件の難易度や離婚に伴う金銭的な請求の額によって異なりますが、着手金が20~50万円、うまく離婚できたときの報酬金は、相手方から慰謝料や財産分与といった金銭的な支払を受けられたときにはその1割程度、金銭的な支払がなかったとしても着手金と同程度の金額を要するとされています。

資力が乏しい人に対して弁護士費用を立替払い法テラスの法律扶助を利用したとしても、標準的な弁護士費用は着手金で25万円程度、報酬金は金銭的請求を伴わないときには8万円程度、金銭給付が伴う時には得られた金額の1割程度とされています。

弁護士側の経済的メリットだけを考えれば、離婚事件をどんどん受任できるように誘導するのが良いのかもしれませんが、特に、離婚をしてその後単身で生活することになる女性の相談であれば、かなりの割合で、経済的にそれまでより苦しくなることになりますので、離婚の際に不必要な費用をかけることを勧めることには躊躇を覚えます。

日本の場合には、協議離婚ができなくても、家庭裁判所の調停制度を利用すれば、当事者間の話し合いの仲立ちをする調停委員が中に入ってくれるので、弁護士が関与しなくてもそれなりの解決は期待できます。

弁護士が関与するとすれば、調停に同席して当事者の主張を補充するのと、審理に必要な証拠の提出を行い、調停委員会が示す調停案が合理的かどうかを判断するなどの役割になりますので、そのような関与が必要な事件かどうかと費用の兼ね合いで、弁護士に依頼すべきかどうかを判断することになります。

なお、法テラスが立替えてくれる弁護士費用ですが、その償還は事件が解決するまで猶予してもらうこともできますし、結論によって経済的にほとんど得るところがなく、その後の生活も生活保護を受けなければならないような困窮が予想されるときには、償還免除という制度もありますので、本当に弁護士の援助が必要と思う事案であれば、償還の点はあまり心配しないで、まずは弁護士に相談してみるのが良いでしょう。

●調停期日は時間がかかる~なぜ?
弁護士にとって、離婚事件の難点は、調停期日に同席するときの待ち時間です。調停は、当事者が同時に調停委員と話をすることはほとんどなく、双方の当事者が交互に調停委員と話をすることになるので、相手方が話している間は控室でじっと待っていなければなりません。

依頼者がいない場合には、別の事件の記録を読んだりすることもできますが、目の前に依頼者がいるのにそんなことをすることもできず、簡単な打ち合わせをする以外は、雑談をしたりして時間をつぶしますが、離婚事件の場合には、待ち時間が1時間以上になることもあり、その待ち時間を他の仕事に充てるなど効率的に時間を活用するというわけにもいかないので、その時間が手持無沙汰に感じることもあります。

実は、私は昨年4月から家庭裁判所の調停委員もやっているので、一方当事者に待ってもらっているときの心苦しさも経験しているのですが、家事事件というデリケートな案件を扱っているので、できるだけ親切に当事者の話を聞かなければならないということで、ある程度の時間お待ちいただくのも仕方ないところではあります。

立場が変わると、同じ待ち時間についても見方が変わるということなのですが、それでも、離婚の場合には、調停という手続きはかなり有効に利用されているので、弁護士に依頼できない場合にも、調停という手続きがあるということは知っておくと良いでしょう。

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今回の解説はこのくらいで終了です。次回は離婚事件の2回目として、離婚事件で遭遇する困った依頼者について、守秘義務を侵さない範囲で解説してみたいと思います。

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「弁護士業界」勝手に解説-「労働事件」(3)・最終回 [「弁護士業界」勝手に解説]

労働事件の第3回は、使用者側から見た労働事件ということで考えてみたいと思います。
前回までの解説はこちら 労働問題(1)労働問題(2)

労働事件について従業員から何らかの請求を受ける可能性があるという事態は、使用者にとっては、それだけ経営上のリスクを負っているということになります。リスクを数値化するのは簡単ではありませんが、リスク管理の観点からリスクの数値化を考えてみると、以下のような計算式が成り立ちます。

リスクの大きさ=予想される支払額×請求を起こされる確率

巨大地震のように損害額が甚大でも、発生の確率がほとんどゼロに近ければリスクは小さいということになりますし、数百万円の請求だとしても、ほぼ確実に請求され、その請求が認められてしまうということであれば、そのリスクは大きいということになるわけです。(前回解説したように、労働事件はかなりの割合で労働者側に分があります。)

前回紹介した未払い残業代の問題を例にとると、一件一件の単価は数十万円から2~300万円程度の事案が多く、これまでは請求を起こされる確率も高くなかったので、リスクとしてはさほど大きなものではありませんでしたが、昨今の残業代請求を巡る状況を考えると、請求される確率は確実に高まっており、それだけリスクも大きなものになってきていると言えます。

したがって、未払い残業代の問題を抱えているのであれば、早期に対策を講じる必要があるのですが、そのような案件の相談に来られる企業の社長は、「残業代をまともに支払っていては会社が潰れてしまいます。」などと言って、対策には消極的です。

私は、企業向けの講演をする際に、様々な経営上のリスクのことを「貸借対照表上に現れていない負債」と表現することがあるのですが、負債が嵩んで支払えなくなれば会社が倒産してしまうのと同様、リスクを放置して巨大化した状態でそのリスクが現実化したときには会社の存続も困難になってしまうのです。

良好な労使関係にある企業であれば、会社の状態を理解する従業員が会社の首を絞めるような無理難題を突き付けることはないと思われるかもしれませんが、従業員自身も収入に余裕のない状態で、周囲から未払いの残業代を請求してうまく行ったという話が聞こえてくるようになると、正当な権利を行使しないことを期待できると考えるのは非常に危険なことです。

●ではどうしたらよいのか?~マスダの考え
それではどうすれば良いのかということなのですが、恒常的に残業しなければ業務が回らないというのであれば、会社の利益を削ってでもきちんと残業代を支払うか、従業員を補充するか、あるいは、根本的な給与体系を変更する以外に方法はないでしょう。

特に、残業代をきちんと支払ったら利益が出せないという会社であれば、従業員にきちんと会社の実情を説明して、残業代算定の基礎となる給与部分の減額を実施しなければならなくなります。従業員に対する説明も、通り一遍の「経営が苦しく支払ができないから」という程度のことでは納得してもらえないでしょう。(社長が高級車を乗り回し、接待と称して毎日のように飲食やゴルフに興じているような会社であれば、従業員が聞いてくれるはずもないので、説明の前には、経営者自身が自らの襟を正しておく必要があります。)

また、そこまでの協力をお願いするときには、会社側も従業員に財務状況をきちんと明らかにして、従業員自身が経営者の目線で考えることができるための情報を提供する必要があります。加えて、従業員に会社の経理内容を理解できるような教育をすることも必要になるでしょう。

こうすることで初めて、従業員の理解を得られるようになり、残業代のリスク(貸借対照表に載らない債務)を削減することができるのですが、実は、経営上それ以上の効果が期待できます。

良く経営者は、「うちの社員は経営者の気持ちを理解してくれない。」とか「経営者の視点を持って仕事をする社員が育たない。」といった愚痴を言いますが、それは、経営者と同じ情報を持っていないのですから、当然のことです。

ところが、従業員に経営者の持っている情報のかなりの部分を公開することによって、従業員自身が経営者的な視点で会社の現状を理解しようとしますので、会社の問題点なども、自分の問題として改善の方向を検討するようになってくれます。

企業のようなピラミッド型組織においては、経営の根幹にかかわる情報はトップに集中し、末端に行くほど少ない情報しか得られなくなります。したがって、自らが必要とする情報を得たいと思ったら上司に提供してもらうしかなくなるので、情報を持つということが権力の源泉になるということがあります。

しかし、そのような経営を続けていては、企業経営を左右する意見は、数多くいる従業員のごく一部の者からしか上がってこないことになります。最終的な判断はトップが責任を持って行うとしても、その判断に至るプロセスとして多くの意見を吸い上げることは大事なことです。

そのような経営の姿勢が、従業員の会社への帰属意識を高めるとともに、従業員自身に経営者の視点を学ばせる格好の機会となるのです。

如何でしょうか、経営者の皆さん。苦しい選択かもしれませんが、その苦しみの先に企業の繁栄があるとしたら、トライしてみる価値は十分にあると思います。

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労働問題に関する解説は今回で終了とさせていただきます。
次回からは、ほとんどの弁護士が年に数件は受任する離婚事件について解説していきたいと思います。

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「弁護士業界」勝手に解説-「労働事件」(2) [「弁護士業界」勝手に解説]

労働事件の第2回は、これから事件の増加が予想されている残業代などの未払賃金請求についてです。
前回までの記事はこちら
弁護士業界には、これまでも何度か特定の業務が業界全体を潤す受任事件の「トレンド」があったと言われています。

●これまでの受任事件のトレンドは?
最初のトレンドは、私が登録する前のことで、「交通事故」が弁護士の大きな収入源になった時代があったということです。その当時の実態は、私自身もよく分かっていないので深入りはしませんが、「任意保険に示談代行の特約がなかった時代」であれば、交通事故が起きて当事者間で話ができない場合には、被害者側だけでなく加害者側も弁護士を依頼することになり、「1件の交通事故のたびに2人の弁護士が事件を受任することになるので、その需要がかなり大きかった」ということかなと思っています。

次のトレンドが、これまで解説してきた過払バブルです。この類型は、交通事故とは違って、弁護士本人は業務のごく一部に関与すれば足りることから、弁護士の事件処理のスタイルを大きく変容させてしまった感があります。弁護士に登録した時の勤務先がこの手の事件しか扱わないような法律事務所であれば、自分で事件を処理するという習慣すら身に付ける機会が無いので、若手弁護士の弁護士業務に対する意識の変化が起こるのではないかとの危惧感はぬぐえないところがあります。

そして、この過払バブルも一段落しそうになってきていることから、弁護士業界は次のトレンドを見つけようとしている訳です。その背景に、弁護士の大量増加に伴う個々の弁護士の収入低下という問題があることはこれまでも解説してきましたので、ここでは割愛いたします。

●さて、次のトレンドは-労働事件
私は、札幌弁護士会の業務改革推進委員会委員長だった2年間、日弁連の弁護士業務改革委員会にも副委員長として参加していましたが、この委員会では弁護士の新しい業務分野の開拓も議論していました。その中では、地方自治体の業務への関与や交通事故の損害賠償にもう一度力を入れるべきなどといった議論もなされていましたが、近年では残業代や休日出勤手当などの未払い賃金の問題が、これから伸びが期待できる業務分野として注目されるようになっています。

これまでも未払い賃金の問題がなかったわけではないのに、どうして最近になってこの分野に注目が集まるようになったのでしょうか。その理由について、正確な知識を持ち合わせている訳ではないので推測になってしまいますが、一つのきっかけになったのは、いわゆる「名ばかり管理職」の裁判のニュースだったような気がします。

***マスダのちょっぴり解説***
「名ばかり管理職」という呼び方を一般的にしたのは、2008年1月28日の東京地裁判決でした。これは、マクドナルドの店長が、実質的な管理職としての権限を与えられていなかったにもかかわらず、店長という管理職の肩書があるために残業代を支給してもらえず、そのことが不当であるということで争われた裁判ですが、労働基準法第41条が、「この章(第4章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇)、第6章(年少者)及び第6章の2(女性)で定める労働時間、休憩及び休日に関する規定は、次の各号の一に該当する労働者(その中に「事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者」という規定があります。)については適用しない。」と規定していることから、これまでは肩書上管理職とされた労働者は、残業代を受けられないのは当たり前というのが多くの労働者の認識だった訳です。
しかし、従業員に「部長、課長、係長」などの肩書を与え、どの範囲の職制を管理職と呼ぶかは、会社が自由に決めることができます。したがって、労働基準法第41条2号の「監督若しくは管理の地位にある者」と管理職の肩書を持っている従業員は、必ずしもイコールではないということはむしろ当然のことなのですが、この判決によってそれが一般の人の知るところとなりました。


労働法上の管理職であれば、前述のように労働時間等に関する規定が除外されているのですから、いつ休もうが1日に何時間働こうが本人の自由であり、賃金は働いた労働時間にかかわらず定額であるということになるはずですが、これまではそのような意識もなく、会社が「管理職」と呼ぶだけで残業代は払われないと思いこまれていた訳です。

多くの外食産業やコンビニエンスストアその他の小売業界でも同様の実態がありましたので、この判決を機に自主的に未払の残業代などを支払うという流れになってきました。言ってみれば、雇用者側の無条件降伏という事態(とはいっても、計算上支給されるべき全額ではなかったと思いますが…。)になって、労働者側は残業代の未払をほぼ確実に回収できるということになったのです。

そうすると、現実の労働時間の立証と未払い賃金の細かな計算さえできればあとはあまり苦労せずに回収が図れることになりますので、業務としての困難性は少なく、相応の報酬も見込めるということで、そのような実態に目を付けた弁護士やその他の関連士業者が、積極的にこの分野を取り込もうとして宣伝を始め、名ばかり管理職以外の社員の人についても、未払の残業代を請求するようになっているわけです。

残業代の請求は、勤務実態が証明できればかなりの確率で請求が認められます。逆にいうと、雇用者側にとっては、未払の残業代があるということは、それだけの債務を抱えているのと同じということにもなります。

そのような事態が健全な経営といえないことは明らかですから、これを是正することが求められ、そのためには賃金体系の根本的な見直しを行う必要すら出てきます。しかし、賃金体系の見直しをするためには、従業員の理解を得なければなりませんが、その手続きが余りに大変なので多くの経営者は手をこまねいている状態のままです。

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残業代を巡る弁護士側の状況はご理解いただけたと思いますので、次回は、コンサル弁護士らしく雇用者側の対策という点から解説してみたいと思います。

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「弁護士業界」勝手に解説-「労働事件」(1) [「弁護士業界」勝手に解説]

労働事件は弁護士によって受任する事件の傾向が分かれる分野です。労使関係というように労働者側と使用者側は対立関係になりがちなので、その対立が当事者間で解決できないほどに深まったときに弁護士に解決を依頼される場面は少なくありません。

と、ここまで書いてきましたが、私自身は企業において労使対立があるというのは、それだけで不健全な状態だと思っているので、できれば労使対立が起こらないような企業経営をしていただきたいし、そのためのアドバイザーとして弁護士が力を発揮できる場面は数多くあるのではないかと思っています。

その意味で、経営者の皆さんには、労働側と深刻な対立になる、ならないにかかわらず、経営課題を検討する際には、弁護士のアドバイスを日常的に受けるような習慣をつけるべきだということを申し上げたいのです。

***マスダの挑戦~企業経営支援のために***
実は、私が平成20年に中小企業診断士の資格を取得して登録した目的も、企業経営者の皆さんが日常的に相談するといっても、そもそも事件になっていないのに弁護士に企業経営の相談をすることができるのかという違和感を取り除いてもらう目的からでした。つまり、私が企業経営の支援を志向しているというメッセージのつもりで登録したのです。
そのための受験勉強は、平成18年の12月から開始して、19年の8月上旬に択一試験、10月下旬に筆記試験、12月中旬に最後の口述試験を受けて、年末に合格発表にたどり着いたので、まるまる一年がかりの挑戦でした。50歳になってからここまで一生懸命勉強することになるとは、受験勉強を始めるまで考えてもいなかったのですが、思いのほか大変な試験で、1年で合格できなければやめようと思って挑戦した結果の合格でした。

今回は合格体験記ではないので、これ以上試験のことは書きませんが、残念ながら中小企業診断士の資格を取っただけでは、企業経営者の方たちから日常的に相談したいというリクエストをいただくには至っていません。やはり、弁護士が企業経営に関与する価値をこれからも積極的に発信していかなければ、弁護士に対する企業側の意識が変わることはないのだと思っています。
※マスダの中小企業診断士資格取得後の奮闘記はこちら


話を労使の問題に戻しますが、私自身は労使間紛争には経営者側で関与することが多いです。その理由は、弁護士経験が長くなったせいで企業の顧問先もある程度の数になってきたことや、ロータリークラブなどで経営者の知り合いが増えると、自然とその紹介などで経営者側の相談が多くなるからです。

一方で、労働組合に関係の深い弁護士などは、受任する労働事件の大半は労働者側の事件ということになります。組合に加入している労働者の人たちであれば、事件を依頼するのもその組合の関係の弁護士ということになりますし、組合に入っていなくても、労働者側の事件を数多く扱っているということがクチコミなどで広がって、受任が増えることになるからです。

もちろん、経営者側で代理人をすることが多い弁護士が労働者の代理人をしてはいけないということはありませんので、私自身が労働者側の代理人になることもあります。

●マスダの見解~労働事件の傾向
そんな経験の中で、労使の争いを見たときに思うのは、弁護士のところに持ち込まれる事件は、かなりの割合で使用者側が負け筋だということです。それは、先ほどの話にも重なりますが、経営者が労働者に対する懲戒や解雇の処分をするときに、きちんと段取りを踏んで手続をすることを怠ったり、不用意な言動が法律違反と評価されたりする事実を、後から修正することがとても難しいからです。

そのような事態を回避するためにも、日常的に弁護士に相談できる体制を用意しておく必要があるのですが、弁護士の側も顧問料という固定収入が得られれば事務所の経営が安定するということがあるので、企業経営の皆さんには「顧問契約をしていつでも弁護士に相談できる体制を作っていただくことが、お互いにプラスになりますよ」とお勧めしている訳です。

それと、相談を受けて大変残念なこともあります。経営者の中には労働者の権利に対してあまりにも無理解な人もいるのです。そのような経営者に対しては、弁護士の側も法律上無理な主張を改めるよう説得するわけですが、どんなに説明しても理解してくれない経営者がいるのも事実です。

そのようなときに弁護士が選択するのは、依頼者の意思に基づいて自分が納得できない争い方をしてしまうのか、それとも、代理人の就任を断るかです。事務所の経営を考えると依頼を断るのは勇気のいることですが、いくら説得しても法に基づいた対応をしてくれないのであれば、その依頼を断るのも弁護士の矜持です。

弁護士法1条には、「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」と規定されています。たとえ使用者側から相談を受けていたとしても、労働者の基本的権利を侵害することが明らかな依頼を受けるのは、この使命を果たすことにならないということは、弁護士の側も自覚しておくべきです。

このように、弁護士の所に持ち込まれる労働事件は、経営側負け筋の事件が多い訳ですが、同じ負け筋の事件でも0対100で負けるのか、20対80で負けるのかではダメージが全く違います。そこで、経営側の代理人となったときには、うまく負けるのも弁護士の腕だということは是非ご理解いただきたいところです。

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次回は、労働事件のなかでも、これから事件の増加が予想されている残業代などの未払賃金請求について解説したいと思います。

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